ITヘルスケア学会
一般演題 1:障害者・在宅支援OS1-04
Possibility for social participation of severely disabled people
城本大輔, 高橋 宜盟
一般社団法人 結ライフコミュニケーション研究所
Yui Life Communication Laboratory
発表内容
こんにちは。城本大輔といいます。
今日は「重度障害者の社会参加の可能性」について少しお話しします。
私はいま41歳。
子供の頃から徐々に筋肉が壊れていく、筋ジストロフィーという病気で、今は指先が多少動かせます。
両親に送り迎えをしてもらいながら、普通高校まで行き、その後、父の仕事のコンピュータの手伝いをしていました。
正式な「就職」ではなく、自分の家の手伝いのつもりでいましたが、「役割」を感じられる環境にいられたことは、とても恵まれていて、充実していたと、今でも思います。
ちょうど5年前に気管切開をして人工呼吸機を使うようになりました。生活は大きく変わりました。
ベッド上で過ごす時間が増え、毎日ヘルパーさんや訪問看護師さんのケアを受け、定期的に往診の先生の診察も受け、時々外来受診もします。
今ここでこうしていられるのは、家族や介護者・医療者にしっかりと支えてもらっているおかげです。
1年くらいで新しい生活スタイルに慣れる一方で、物足りなさを感じるようになってきました。自分の体に関する必要なことであっても、毎日医療と介護にばかり向き合っていると気が滅入るのです。
そして「自分が何か一生懸命取り組めるもの」が欲しいと思うようになりました。できればそれを通して、何らかの形で社会の役に立ったり、必要とされる側にもなりたいと思います。
十分にケアが行き届いていても、社会との関わりがないと健康ではいられません。
一生懸命取り組める社会との関わり、社会参加は、何か仕事をするということに限りませんが、本来ならそうしているであろう年齢なら、できればきちんと仕事に就きたいと思うのは、自然な思いです。
障害のある人々のなかには、絵を描いて個展を開いたり、本を書いて出版したり、作曲したりしている人もいます。
それぞれに才能を発揮し、とても立派なことです。
しかし優れた詩人がそこらじゅうにたくさんいないように、障害者は皆アーティストというわけではありません。私も違います。
そこで私は、
「考えたアイデアを企業に送ってみて、気に入ってもらえたらそれを提供する」
ということをしてみました。
興味あるジャンルだからという、非常に安易な考えから出たものですが、私はベッド上である程度パソコンは使えますし、横になっていても考えを巡らせることはできます。
考えたアイデアの中心は、コミュニケーションツールにしました。呼吸機を使い始めて、1年弱の間しゃべれない期間があり、日々のコミュニケーションに、とても苦労したこと、それを解消する方法にあまり選択肢がなかったこと、何らかの事情でしゃべれない人が多くいることを知ったからです。
みなさん今無事にしゃべれることができてなによりですが、少し想像してみてください。
身振り手振りなし、筆談もなしで、しゃべれない状況です。
明後日くらいまで元気でいられそうですか?
こうなる可能性は誰にでも起こりうることでもあり、仕方ないといえば仕方ないのですが、せめて身近な家族とは円滑なコミュニケーションが取れるようにしたいです。
そんな思いからでたアイデアをまとめ、PDFにしました。
たいていの企業のホームページには「お問い合わせ窓口」があるので、コミュニケーションツールに興味を持ってくれそうな、幾つかの会社に、そこにメッセージを送りました。
「自分が何者で、今こういうことを考えていて、こういうことをしてみているので、読んでみてはもらえないでしょうか、イタズラではありません」
そして反応を待ちます。
1社目は無反応でした。厳しいスタートです。
2社目、原則として外部からの提案は受けないとのことでした。
その後も、対価を要求するか、一般的要望なのか確認されたり、他に声をかけるといってそれっきりだったり、アイデアの採用不採用は通知しない、などの反応がありました。
ほぼ一年かけて、この方法ではダメなのだろう思いましたが、ポッドキャストで知ったiPhoneアプリの会社に、これが最後として、連絡をしました。
この8社目にあたる会社で、私の提案がそのままカタチになったわけではありませんが、その後も現在に至るまで、アイデアの話し合いに参加させてもらえています。
この一年の企業とのやり取りはすべてネットを通した文書によるものです。
そこから感じ取れたことは、企業は自社製品に対するフィードバックならともかく、外部からの急な提案・企画は別に求めていないこと、提案も何でも良いわけではなく、よほど必要性を訴えるものでなければ、なおさら関心を持たれないこと、もし優れた提案だったとしても、各社、中・長期的計画があり、すぐに何か動き出せるわけではないなど、いろいろなことがわかりました。
企業は今は私のアイデアを採用しなくとも、いつかそれに近いことをするかもしれませんし、その時期は不明ですから、結果を通知しないというのももっともなことです。
各企業とのやり取りはICTあってのことで、自宅であり、その大半はベッド上での出来事でした。
現在も8社目とのやり取りが続き、ネット上でのやり取りだけでなく、実際に顔を合わせて話し合いに参加させてもらえるきっかけになり、そうでなかったら知り合うこともなかったであろう人々と、つながりを持てたことも含めて、十分意味のある結果になったと思います。
今年1月の「民間企業における障がい者雇用率が過去最高を更新」という記事を見ると、大企業をはじめ、障害者もできるだけ雇用していこうという流れは強まっています。
しかし統計に現れる障害者の多くは、自力で通勤できたり身の回りのことは大方できる人たちです。
ICTの工夫によって、重度な障害を持つ人たちにも可能性は出てきました。様々な事情で目一杯は働くことはできない人たちの、仕事の評価であったり、仕事の幅が広がるように、技能取得の考慮など課題はあります。少しのお給料をもらったために、それまで給付されていた、必要な公的サービスが受けられなくなってしまうならそれはバランスが悪いでしょう。
重度障害者といっても、程度や事情も様々なので試行錯誤ではあるかと思いますが、ひとつひとつ様々な事例が増えていくことが大事です。
今回のITヘルスケアのテーマ、
「ICTデータから見えてくる医療・介護・ヘルスケア連携の近未来」に沿って、予想図のひとつになり得るのは、「障害者の活躍が珍しくない社会」です。
社会から必要とされ、その場で力を発揮したいと思う気持ちは健常者も障害者も同じで、生きがいになるからです。
私の話は以上です。
ご静聴ありがとうございました。